25年間続けてきた旅館を手放し、50代でまったく新しい職場に飛び込むことにしました。
経営者から一人の求職者になった私が、どのように仕事を探し、内定をもらうまでたどり着いたのかを書いてみます。
経営者から一人の求職者へ
旅館の経営に区切りをつけ、新しい生活を始めることになりました。
以前読んだ本で紹介されていた、大前研一さんの言葉が頭をよぎります。
「人間が変わる方法は3つしかない。
1つ目は時間配分を変えること。
2つ目は住む場所を変えること。
3つ目は付き合う人を変えること。」
私は、旅館売却後、さっそく会社員時代に過ごした他県の都市部へ引っ越しました。
25年間「旅館の経営者」として生きてきた私が、今度は一人の求職者として求人サイトを開いたり、ハローワークへ行ったり、履歴書や職務経歴書を書くことになったのです。
覚悟していたつもりでしたが、実際にその作業を始めてみると、「本当に自分は新しい場所でやっていけるのだろうか」という不安が、じわじわと押し寄せてきました。
それでも、生活していくためには働かなければなりません。
私は少しずつ、応募を始めていきました。
最初にぶつかった壁は「書類選考」
職務経歴書には、大学卒業後7年間の会社員経験のあと、「旅館経営」と書くことになります。
正直なところ、これがどう受け取られるのか、まったく想像がつきませんでした。
自分では、接客も事務も経営もやってきたつもりでも、それが「世間でどこまで通用するのか」が分かりませんでした。
実際に応募を始めてみると、想像以上に書類の段階でお断りされることが多くありました。
私はこれまで「採用する側」として求人を出してきましたが、田舎の旅館に応募がくることは少なく、面接まで来てくれた方はほぼ100%採用していました。
それに対して今度は、書類を郵送・メールした段階で選考から落ちてしまう。
面接どころか、「お会いする」ステージにも進めないのです。
数日後に届くのは、「申し訳ありませんが…」というお断りのメールばかり。
これは、想像していた以上に心にこたえました。
それが続くと、
「やっぱり経営者からの転職は難しいのかな」
「年齢も関係しているのかな」
ハローワーク経由の応募はいったんあきらめて、転職サイトから派遣スタッフとして働く道へと切り替えることにしました。
派遣会社との面談と「仕事の希望」
落ち込む日があっても、数日経つとまた求人サイトを開き、条件を見直しながら新しい求人を探す。
そんな日々の中で、私は「徒歩で通える範囲の職場」という条件を、ひとつの目安にしていました。
いくつか応募をすると、派遣会社から面談のお知らせが届きました。
求職活動を始めて、初めての面談です。
面談では自分の希望を伝えましたが、やはり私が接客慣れしていることもあり、「営業職のほうが向いているのでは?」と言われました。
それでも、ここだけは自分の希望を貫くことにしました。
やりたくない仕事を選んでも、きっと長くは続けられない。
せっかくご縁をいただくのであれば、決められた期間は仕事をやり通したい。
そう思った私は、事務職で探してもらうようお願いしました。
そこで紹介してもらったのが、オペレーターの仕事でした。
経験もなく、CMのワンシーンで見るようなイメージしかありませんでしたが、思い切って応募してみることにしました。
タイピングテストと、通過の電話
派遣会社2社で面談を受けましたが、どちらでも事務職希望を伝えると、まずタイピングのテストが行われました。
事務職を希望する場合、タイピングはやはり必須のスキルなのだと実感しました。
そして数日後、派遣会社から「選考を通過しました」と連絡をいただきました。
もしかしたら就職までに数か月、もっと時間がかかるかもしれないと覚悟し始めていたところだったので、その電話は本当にうれしいものでした。
「私に勤まるかな?」という不安は、そのときはほとんどありませんでした。
それよりも、「真面目に働いてきた経験を評価してくれる人や企業は、ちゃんとあるんだ」と感じられたことが、何よりうれしかったのだと思います。
その内定にたどり着くまでには、不採用通知もたくさん受け取りました。
それでも、あのとき諦めずに応募を続けてよかったと、今は心から思います。
初出勤の日に感じたこと
そしていよいよ、初出勤の日を迎えました。
久しぶりの「新人」としてのスタートに、家を出るときから少し緊張していました。
これまで25年間、ずっと自分が指示を出す側だったのに、今度は教えてもらう側になる。
頭では分かっていても、実際にその立場に立ってみると、やはりどこか落ち着かない気持ちがありました。
職場に着くと、担当の方が仕事の流れやルールを丁寧に説明してくれました。
新しい専門用語やシステムの名前が次々に出てきて、「ちゃんと覚えられるかな」と不安もよぎりましたが、それでも一つひとつメモを取りながら、必死についていきました。
そんな中で、ほっとした瞬間がありました。
それは、自己紹介をしたときに「旅館をされていたんですね」「大変なお仕事ですよね」と、温かい言葉をかけてもらえたことです。
私のこれまでの経歴を「特別なこと」としてではなく、「ちゃんとした経験」として受け止めてもらえたように感じて、ふっと肩の力が抜けました。
「ここで少しずつ覚えていけばいいんだ」と思えるだけでも、大きな安心につながっています。
旅館とはまったく違う環境に飛び込んだけれど、長く続けてきた経験は決してゼロではなく、ちゃんと今の自分の支えになっている──そんなことを、改めて感じた初日でした。
まだ働き始めて10日ほどですが、ここからどんなふうに仕事や生活が変わっていくのか。
期待や不安、自分なりに感じたことを、少しずつ残していけたらと思っています。